1. 特許における請求項とは?
特許において、製品を開発する時に心配になるのは、やはり他者の特許権利を侵害していないかどうかではないでしょうか?
そのために、開発段階で特許調査をよくやられていることかと思います。電子図書館等により、誰でもより簡易に特許調査ができるようになり、ある程度はご自身で調査ができるようになりました。
しかしながら、侵害判定時に一番重要な特許請求の範囲(クレーム, Claim)をいざ読んでみても、簡単に判断することは面倒で大変ではないでしょうか?
既に、ご承知の内容や、ご自身のやり方、考え方等あるかと思いますが、サーチャーとしての視点からご紹介いたします。
尚、本項目は、一サーチャーとしての意見であり、最終的な侵害、抵触判断等は、弁理士等の鑑定が必要になることをご承知ください。
2. 権利範囲の定義
3. 言葉の持つ範囲
それぞれの言葉のもつ広さの関係は、
端末 > 携帯端末 > 携帯電話 > スマートフォン
左に示した表現ですと、権利範囲が広く(上位概念)、右に行くほど権利範囲が狭く(下位概念)なります。
すなわち、下図の関係から「端末」と記載されていた場合、「携帯端末」、「携帯電話」、「スマートフォン」の全てが権利範囲に含まれる可能性があると考えられます。
後述しますが、侵害調査(クリアランス調査)のように大量の文献を時間をかけずに判断するとなると、どんなに経験豊富なサーチャー(弁理士)でさえも、文字列につられて判断を誤る原因となりえます。私は、侵害調査(クリアランス調査)の際、言葉の持つ範囲(=言葉の広さ)を常にイメージするようにして、読み漏らしないようにしています。
4. 構成要件の分割
Ex. 請求項1で以下の記載がされていた場合
「接続情報をコード化した識別情報を撮影する撮像手段と、前記撮像手段が撮影した前記識別情報を解読してデータに変換する解読手段と、前記解読手段が解読した前記データが示す接続先に接続する接続手段とを備えたことを特徴とする端末。」
以下のA-Dの構成要件となるかと思います。
A.接続情報をコード化した識別情報を撮影する撮像手段と、
B.前記撮像手段が撮影した前記識別情報を解読してデータに変換する解読手段と、
C.前記解読手段が解読した前記データが示す接続先に接続する接続手段と
D.を備えたことを特徴とする端末
5. 製品(イ号)との対比
自社の製品(イ号とも呼ばれます)を、以下のように仮定します。
「ユーザは、カメラ機能付き携帯電話で、広告に記載された2次元コードを撮影する。携帯電話は、コードをURLに変換する。携帯電話は、このURLのサーバーに接続して、このサーバーから広告情報を自動的に取得する。」
第4項の構成要件A-Dと、製品(イ号)とを対比してみます。判定欄には、構成要件に含まれる場合は、「◎」としています。
構成要件 | 製品(イ号) | 判定 |
A.撮像手段 | カメラ機能付き携帯電話、2次元コードを撮影 | ◎ |
B.解読手段 | URLに変換 | ◎ |
C.接続手段 | URLのサーバーに接続 | ◎ |
D.端末 | 携帯電話 | ◎ |
この場合、全て◎となり、「侵害する可能性がある」と判定できます。=オールエレメントルール
6.請求項を読む上での注意点
(1)イ号の「サーバーから広告情報を自動的に取得する」が請求項では、記載されていないので、「侵害しない」と考えてしまいがちです。全て「◎」ですので、第1項に記載のオールエレメントルールに相当します。
従って、広告以外、オンラインショッピングのサイト、企業のホームページ等どこへ接続するかは、本ケースの侵害判定に影響されないことを理解する必要があると思います。
(2)具体的には、例示していませんが、実施例、図面等で、製品(イ号)と異なっていると、「侵害しない」と判断しがちです。最終的には、請求項の権利範囲に含まれることを実施していれば、「侵害する可能性がある」と判断する必要があると思います。
(3)経験上もっとも陥りやすい誤りが、請求項が「上位概念」で記載されている場合です。3項で記載しましたように、権利範囲は言葉のもつ範囲で決まります。本例では、「識別情報」、「端末」が相当すると思われます。「識別情報」と「2次元コード」、又は、「端末」と「携帯電話」を対比した場合、「実施しない(又は含まれない)」と判断しがちです。
私は、言葉範囲を楕円(面積)でイメージして、その楕円内に製品が含まれるかどうかで判断するようにしています。
7. 裏ワザ(早く読む方法、簡単に判断する方法)
(1)「前記」、「上記」、「当該」、「該」を極力読まない。また、例えば、装置等の物の発明の「AするA手段」等と記載されて読む量が増えます。「~手段」の部分を読まない、又は、できれば、「方法」の請求項から読むと早く読めるかと思います。
(2)いきなり請求項から読むと理解が難しいです。例えば、「技術分野」、「発明が解決しようとする課題」から読んでから請求項を読んでみてください。目的・効果のない発明は、まずありえませんので、その部分を理解してから請求項を読むと、請求項が理解しやすくなると思います。
(3)若干の読み漏らし、特殊な例外(均等論等)がございますが、含まれない部分をまず探すと侵害・非侵害の判定を行うことができます。
例えば、第5項の「カメラ付き携帯電話」が、「バーコードスキャナ付き携帯電話でバーコードを走査する」という製品であった場合、「カメラ」と「スキャナ」とが明らかに異なる(含まれない、実施しない)と判断できた場合、「侵害しない」と判断でき、具体的には、構成要件のAを読んだ段階で判断できます。
(4)先に、目的、効果を読んでみてから、請求項を読むとご説明しましたが、構造物(物の発明)でしたら、図を見てみると、請求項が読みやすくなる場合があります。また、方法の発明では、フローチャートから読んでみると、請求項が読みやすくなる場合があります。
(5)読み漏らしは、第3項の「言葉の持つ範囲」で主に発生します。
上位概念で記載された請求項(=権利範囲の広いもの)は、どんなに経験豊富なサーチャー(弁理士)でも、文字列につられて判断を誤る原因となります。謙虚な気持ちで、且つ、侵害するかもという気持ちで請求項読むことをお勧めします。